フィットネス業界は2012年以降、市場拡大の傾向にありましたが、2020年は新型コロナウイルスの影響により全国のスポーツジム・フィットネスクラブが一時休業や9月末までの時短営業を余儀なくされ経営に深刻な打撃を受けました。
しかしその一方で、外出自粛や在宅ワークなどにより、思うように体を動かすことができないことから、これまでよりも意識して運動する人が増えています。
生活スタイルが変化したことにより、フィットネス業界は従来の総合フィットネスではなく、自分により合ったトレーニングを一人ひとりが見つけることができる24時間ジムや、パーソナルジムなど目的に特化したフィットネスが勢いを増しています。
また、新型コロナの影響を受けてフィットネス業界全体は減少しましたが、ジムへのニーズや在り方が変化したことで、オンラインサービスやIoTデバイスを活用したサービスが増加しており、フィットネス業態の多様化が進んでいます。
本記事では、コロナの影響によるフィットネス業界についてや、なぜ24時間ジム・パーソナルジムはコロナ渦でも需要があるのか。またアフターコロナ(ウィズコロナ)のフィットネスはどんなニーズがあるのかについて、新たな業態のサービス事例を交えてご紹介します。
フィットネス市場は2012年から継続して伸びており、2019年の市場規模はおよそ4,939億円とほぼ5,000億円にまで達し、業界史上最高値を更新しました。
グラフ1.フィットネス市場規模の推移
日本でフィットネスを利用する人は、2011年3月11日の東日本大震災により入会者が一時的に減少したものの、同年7月から盛り返し、以降増加し続けています。
2018年は対前年11%ほど伸び、2019年はさらに伸び4.4%で555万人以上となりました。
2010年まで、コナミスポーツやティップネスなどの温泉、スイミング、スタジオレッスンやマシンジムなどの「汗を流し運動する場所」として、提供する総合フィットネスが主流でした。
しかしここ数年でフィットネス形態が大きく変わりました。
様々なトレーニング・スタジオレッスンを受けることのできる総合フィットネスから、「ボディメイク」「健康維持」「ストレス解消」「ダイエット」など、特定の目的に特化した専門性の高いフィットネスクラブが人気になっています。
現在のフィットネス形態は大きく4つに分類されます。総合フィットネス、コンセプト型スタジオ、24時間ジム、パーソナルジムです。
プール、ランニングコースや複数の小スタジオなど多人数が一度に各種機器を使用できるトレーニングルームが特徴的です。そして、サウナやバス、休憩スペース等を利用できる総合サービス提供型のフィットネスです。最新のマシンやプログラムを取り入れているフィットネスが人気です。
例:「TIPNESS」「コナミスポーツ」「TOKYU SPORTS OASIS」など
お客さまの目的や生活スタイルに合わせて業態が多様化した専門性の高いフィットネスクラブです。「健康」「ボディメイク」「ダイエット」「ストレッチ専門」など、目的に特化したフィットネスが人気です。
例:女性専門の30分間限定フィットネスクラブ「カーブス」、ホットヨガ専門スタジオ「LAVA」、暗闇フィットネス「EXPA」、ストレッチ専門サロンでは、「Dr.stretch」など
24時間年中無休なため時間を気にせず、好きな時にジムに通うことができるフィットネスクラブです。ランニングマシンやウェイトマシーンが揃っています。無人ジムであることで人件費削減に繋がり、総合フィットネスよりも低価格で利用できることも人気の一つです。
例:「エニタイムフィットネス」「ジョイフィット」「ファストジム24」など
お客さま一人ひとりに専属のトレーナーがついてサポートしながら、理想の身体を目指すパーソナルトレーニングを行うジムです。自分に合ったプログラムで、正しくトレーニングを行うことが出来るため他のフィットネスジムよりも価格は高いですが効率的に結果が出やすいため人気です。
例:「RIZAP」「GOOD LIFE GYM」「APPLE GYM」など
2012年から継続的に成長してきたフィットネス業界ですが、2020年からのコロナ禍によりフィットネス全体のマーケットはどう影響を受けたのでしょうか。また、コロナの影響により人々の生活スタイルが変化したことで、どんなフィットネスが必要とされるようになったのでしょうか。
様々なサービス業の活況度を示す第3次産業活動指数でスポーツ施設提供業の内訳(利用者数の変動)を参考にしたところ、フィットネスクラブは2014年以降、上昇傾向にありましたが、2020年は新型コロナウイルス感染症の影響により大きく低下しています。
2020年5月頃に大きく減少した原因としては、緊急事態宣言の再発令や外出自粛要請の延長が続き、飲食店などと同様、全国のスポーツジム・フィットネスクラブが一時休業や時短営業を継続したためです。2020年8月頃に回復していますが、コロナ前の2019年1月と比較すると8割程度と売り上げは低下しています。コロナの影響により、利用者の生活スタイルやニーズの変化があったことでフィットネス業界全体のマーケットは低下したことがわかります。
コロナ前は総合フィットネス、コンセプト型スタジオ、24時間ジム、パーソナルジムであるように、施設に通うことが今までのフィットネス業界の在り方でした。しかし、コロナの影響により感染リスクを避けたい人が増えたことやジムの休業要請が発足したため、従来のフィットネスの在り方では退会する方が増加しています。
退会する理由としては、感染リスクを避けたいため外出せずに運動したい・在宅ワークが増えたためスキマ時間に効率よく運動したい・収入が不安定なため低価格で利用したいなどコロナ前までには無かった新たなフィットネスの在り方が求められています。新型コロナの影響を受けてフィットネス業界全体は減少しましたが、ジムの在り方やニーズが変化したことで、自宅で行えるオンラインサービスやIoTデバイスを活用したサービスが増加しており、新たなフィットネス業態として多岐に広がっています。
今後も新たなフィットネス業態が増え続けることで、それぞれのニーズに合ったジムスタイルの選択肢が可能になるため、今よりももっとフィットネス市場は拡大すると予想されています。そこで、フィットネス業界の形態が変化し続けている中でも、24時間ジムやパーソナルジムはなぜコロナの影響を受けず店舗拡大し続けているのでしょうか。
新型コロナが流行中でも、なお勢いある24時間ジムとパーソナルジムは店舗拡大をしています。なぜコロナ渦でも需要があるのかの背景や理由、またそれぞれの特徴をメリットとデメリットを踏まえてご紹介します。
24時間ジムが増加し続けている背景として、首都圏での出店環境にも変化が出ている。この2、3年は首都圏でいいテナント物件を押さえるのが難しかったが、コロナの影響で飲食店などの閉店・退去が相次ぎ、駅周辺で24時間ジムに適した80〜90坪の物件が空き始めています。
その他には、日本人の可処分所得は低下し続け、総合フィットネスクラブのように高い会費ではなく、リーズナブルな会費を好むようになったこと。日本人の生活スタイルが多様化し、その変化に対応した営業時間であること。都市部だけでなく地方での出店展開も拡大したことなどが、利用者が増え続けている理由と言えます。
パーソナルジムの増加理由は、元々パーソナルな空間のため、不特定多数の人との接触などの心配はなく、安心してトレーニングに打ち込めるのが特長でした。そのため、コロナの感染をできる限り防ぎながら身体を動かすことが可能なパーソナルトレーニングジムは、安心して体を動かすことのできるスポットとして認知され始めました。
感染リスクを避けるためにオンラインフィットネスを利用し始めたが、自分の体に合った方法かどうか判断できない・指導が分かりにくい・トレーニングやダイエットを継続することができない悩みを持った方が増加したため、個人指導してもらえるパーソナルジムに通う方が増えたことも理由の一つです。
365日24時間いつでも開いており、いつでもトレーニングが行えるトレーニングジムです。24時間ジム業界トップのANYTIME FITNESS(エニタイムフィットネス)は、コロナ禍でありながら2020年の1年間で150店舗以上出店し、現在国内に「1,000店舗」近くあります。その他の主要な24時間ジムの店舗数と合わせると、24時間ジムは日本国内に「2,000店舗」以上あります。
なんといっても24時間ジム最大のメリットは365日24時間基本的にいつでも利用できる所です。また会費が他に比べて低価格な理由として「マシン特化型」であることが挙げられます。ある程度マシンの使い方がわかり、それ以外の付加価値を求めない人であれば、24時間ジムが向いています。
毎日でも利用可能というのはメリットでもあるのですが、毎日通えるからこそ自分に甘くなってしまうことや時間帯によって混雑することが多いのも事実です。
パーソナルトレーニングジムには、以下の2つタイプがあります。「短期集中型」と「継続型」です。「短期集中型」は、短期間で集中的にダイエットやボディメイクに取り組むタイプです。「継続型」は、回数券や都度払いまたは、サブスク(月額固定)で、長期的に継続し、少しずつ効果を出していくタイプです。
新型コロナの影響により、RIZAP(ライザップ)などの「短期集中型」のパーソナルトレーニングジムよりも、「継続型」タイプが増えてきています。パーソナルトレーニングジムは現在、日本に「1,000店舗」以上あり、2021年も店舗数がさらに増加しています。
一人ひとりに専属のパーソナルトレーナーがついて、その人に合ったトレーニングメニューを提案してもらえることが大きなメリットです。
デメリットと感じてしまう大きな要因として、会費が他のフィットネスよりも高いためその分の満足度のハードルが高くなってしまっていることが考えられます。
24時間ジムやパーソナルジムは、総合サービス提供型のフィットネスではなく、ニーズに合ったサービスに特化しています。そのため一人ひとりが自分のライフスタイルや目的に合ったジムに入会する方が増加しました。また、感染対策の方法が徹底しやすかったことも利用者数が増加し続けている要因の一つです。具体的に感染対策の基準をご紹介します。
新型コロナウイルスの影響により、スポーツジムでのクラスター発生事例が出たことで休業しフィットネス業界にとって厳しい状況が続いています。そこでクラスターが発生しないためのフィットネス関連施設における新型コロナウイルス感染拡大対応ガイドラインを策定しました。
■密な状態のリスクチェックポイント(飛沫感染対策、人の密度の管理)
■接触感染のリスクチェックポイント(消毒の徹底)
■感染症罹患者が誤って入場してしまうリスクへのチェックポイント
FIA フィットネス関連施設における新型コロナウイルス感染拡大対応ガイドライン参照
フィットネスジムでの感染症対策についてご紹介しました。クラスターが発生してしまうと、消毒作業等で休館にしたり濃厚接触者を特定したりと業務に大きな影響を及ぼします。
全てのお客さまが安心して通える快適に利用し続けるために、空間作りの感染対策の徹底が必要不可欠です。また感染リスクを避けたいニーズに応えるために、オンラインフィットネスが一気に拡大しています。新たなフィットネス業界の参画としてオンラインフィットネスとはどんなサービスなのか、需要が高まっている背景をまとめました。
オンラインフィットネスはジムに通わずにテレビ電話を使用し、自宅で受講できるタイプのフィットネスを行うサービスです。アメリカでは 10 年程前から流行し始めており、日本では数年前からサービスが始まりました。
これまでは子供を持つジムに通えない主婦層が主なターゲットでした。しかし 新型コロナウイルスの拡大により外出制限やジムの営業停止を要請されたため、ジム事業者が新たな運営スタイルとしてオンラインを取り入れ始めました。提供サービス内容も拡充し、数か月間で利用者や利用者層が一気に増加しました。
オンラインフィットネスを始めるきっかけとして下記の理由が挙げられました
このようなニーズに応えるように、提供サービス内容も拡充し、数か月間で利用者や利用者層が一気に増加しました。
では、オンラインフィットネスはどんなサービスを行っているか紹介します。
オンラインフィットネスの種類は、月額制でヨガやピラティスの動画を視聴、パーソナルトレーニングがあります。
新型コロナの影響により、施設型ジムと併用し、自宅でのトレーニングのサポートとしてオンラインフィットネスを利用するサービスやキックボクシングジムやダンススクールもオンライン市場に参入しています。
オンラインフィットネスの市場規模は2019年時点で2.4億円前後、会員数は2万人前後とみられています。新型コロナの影響により、2020年の1〜3月で各社とも会員数が急増しており、3〜4倍増えた事業者もあります。
2019年のオンラインフィットネス会員数を2万人、2020 年の会員数見込みを3万人として、売上高ベースでは150%の3.6億円を見込んでいます。主要な事業者の予測見解を元に2025年までの会員数及び売上高を以下の通り推計しています。
表2.今後の市場規模予測
| 実績 | 見込み | 予測 | ||||
| 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 | 2025年 |
会員数(万人) | 2.0 | 3.0 | 4.5 | 5.5 | 6.0 | 6.5 | 7.0 |
売上高(億円) | 2.4 | 3.5 | 5.4 | 6.6 | 7.2 | 7.8 | 8.4 |
対比前年比(%) | – | 150 | 150 | 122.2 | 109.1 | 108.3 | 107.7 |
TechnoCreate Tec Journal Vol.28_2020「オンラインフィットネス市場の動向と将来展望」参照
上記のグラフから、2025年には8.4億円と売り上げの増加を予測しています。
世界的な感染症の流行を契機とした生活スタイルの変化により、オンラインフィットネスという新しい選択肢が人々の中に生まれました。今後、新規参入企業の増加や、周辺事業・サービスの展開などにより、現状の予測値以上に市場が拡大する可能性も大いに秘めています。
オンラインフィットネスの周辺事業やサービスの事例として、今後日本での展開が有望視されているのが、フィットネス機器との併売です。オンラインフィットネスの先行市場であるアメリカでは、自宅用フィットネス機器とトレーニング動画を併売するビジネスモデルがすでに展開されています。ウィズコロナ時代に合ったニュースタイルのジムをいくつか紹介をしたいと思います。
在宅勤務で普及したWeb会議ツール「Zoom」などを使ったパーソナルトレーニングやグループトレーニングのサービスです。オンデマンドでの動画配信では人とのコミュニケーションが少なく、ユーザーにとっては運動を継続するのが難しいと感じる方向けにリアルタイムで対話が可能なトレーニングサービスです。オンラインサービス売買サイト「MOSH」ではフィットネスなどのオンラインレッスンを提供する事業者が急増し、4月の予約・取り引き件数が前月比260%増になっています。
ノートパソコンのWebブラウザー経由で提供するサービスで、トレーナーによる手本の動画を再生しながら、カメラで撮影する動画からユーザーの動きを認識して手本との差をAIが分析します。実際のトレーナーのように「ひじをもっと上げて」「いい調子」といったリアルタイムでのフィードバックを返したり、動きをスコア化して評価するAIパーソナルトレーナーサービスです。
マイクロエンタテインメントはイスラエルのスタートアップ企業が提供するAIパーソナルトレーナー「Kemtai」の日本展開を開始(2020年5月13日発表)。年額は96米ドル(月額8米ドル相当、1米ドル=108円として約860円)とAI活用ならではのコストパフォーマンスを見せています。
オンライン化が進むゲーム業界でもフィットネス分野が盛り上がりを見せています。任天堂の家庭用ゲーム機「Nintendo Switch」では、「リングフィット アドベンチャー」がフィットネスゲームとして健闘しています。ゲーム機のコントローラを付属の「リングコン」と「レッグバンド」にセットし、エクササイズの動きによりゲームを進めていくため、ゲームのストーリー性により運動を続けやすくしています。
アメリカでは、ミラーデバイスを使ったオンラインフィットネスサービスが注目されてきています。日本のミラーデバイスサービスとして代表的なものは、「MIRROR FIT.(ミラーフィット)」、「embuddy(エンバディ)」、「ハコジム」などで、いずれも2020年〜2021年にリリースされています。まだユーザー数などは公表されていないですが、アメリカの状況を見ると日本での反応も期待できます。
その中で「ハコジム」は、24時間年中無休 × 個室 × スマートミラーによる合理的なプライベートジムです。事前予約制の個室型のジムで誰にも会わず自分のペースで、トレーニングすることができます。自社開発したスマートミラーのシステムでは目的に応じたトレーニングメニューが鏡に映し出される等身大のトレーナーにより運動する自らの姿を確認しながらトレーニングができます。
「ハコジム」は、パーソナルジムと24時間ジムのメリットを掛け合わせ、アフターコロナに適応した新しいスタイルのジムです。
ぜひチェックしてみてください。