近年、フィットネスに筋トレいわゆるレジスタンストレーニングだけでなく、身体の深部に位置するインナーマッスルを鍛えることが運動効率UP、健康増進、パフォーマンス向上につながると注目を集めています。そして、このインナーマッスルのトレーニングとして最適なのがピラティスです。
とはいえ、言葉だけが先行してしまい、「インナーマッスルって何?」「ピラティスってどういうことをするの?」といった疑問をお持ちの方も多いでしょう。
そこで今回は、インナーマッスルについてと鍛えることの必要性、また、なぜピラティスがインナーマッスルのトレーニングとして最適なのかを解説していきます。
大きく分類すると、筋肉にはインナーマッスルとアウターマッスルの二種類があります。
インナーは深部、アウターは表面という意味の通りそのまま、インナーマッスルは身体の深い部分にある深層筋を指し、アウターマッスルは身体の表面にある表層筋のことを指します。
表層部にあるアウターマッスルは、鍛えることにより太くなる白筋が主であり、例えば力こぶなど目で確認することができます。対して深層部にあるインナーマッスルは、鍛えてもあまり太くならない赤筋が主であり、さらに身体の奥に存在するため、目に見えず認識しにくい筋肉でもあります。
身体の深層部にあるインナーマッスルは、骨や関節、内臓の近くに位置しており、それらを助け、安定させる役割を持っています。
まず、関節が正常な位置を保てるように支えることにより、姿勢を調整する作用があり、「姿勢保持筋」という別称もあります。
同じく、内臓も正しい位置をキープするよう支え、それによって内臓の働きがスムーズになる助けをしています。また、関節が正しく動くように安定させる役目もあり、動作時に主立って作用する表層のアウターマッスルと共に働き、サポートをしています。
このように、インナーマッスルは身体の内側で各部の働きを補助する、「縁の下の力持ち」のともいえる役割を担っており、身体の土台として存在している筋肉なのです。
先ほど、インナーマッスルは「縁の下の力持ち」と述べましたが、身体の内側で重要な働きをしています。その存在は、例えるなら歌舞伎の舞台の「黒衣(くろこ)」です。
歌舞伎の舞台では、歌舞伎役者がパフォーマンスを行うにあたって、黒衣の存在は必須です。黒の衣装に身を包み、舞台上では存在しないという設定でありながら、小道具の差し替えや衣装替えなど絶妙なタイミングで行い、役者のパフォーマンス、そして舞台の進行のサポートをしています。影の存在でありながら、必要不可欠な存在であり、彼らの存在がなければ、歌舞伎の舞台は成り立ちません。
インナーマッスルも同じく、表には見えないけれども、深い部分で身体を支えている、必要不可欠な存在であり、身体を形成するのに重要な役割を担っているのです。
身体にとって必要不可欠なインナーマッスルですが、身体の深い部分にあるため認識が難しく、意識的に鍛えなければ、年齢とともに衰え、身体に様々な悪影響を及ぼします。
まずは姿勢の乱れ。骨の位置が正常でなくなることにより、正しい姿勢を保つことができなくなり、猫背や反り腰、また身体の歪みの原因となり、腰痛などを引き起こします。
そして、関節の動きも鈍くなり、腕が上がりにくい、膝の曲げ伸ばしが難しく階段の昇降がつらい、など動作がスムーズにできず、日常生活に何らかの支障をきたすことがあったり、怪我の原因となることもあります。
さらに、内臓も正しい位置で保持できず下垂してしまいます。下腹だけ目立って膨らむポッコリ腹の原因はこれです。もちろん外見だけではなく、内臓が本来あるべき位置にないということは、内臓機能の低下し、体内の循環がうまくいかず、血行や消化不良、代謝や免疫力の低下など、あらゆる不調へとつながっていきます。
よって、インナーマッスルの衰えを防ぎ鍛えることによって、上記のことを防止あるいは改善することができます。
例えば、姿勢を整えることによって見た目のバランスが良くなり、特に女性にはスタイルアップの効果が期待できます。関節の動きが良くなれば、身体を動かすことが苦ではなくなり、より活動的になるのはもちろん、怪我のしにくい身体になります。そして内臓機能も正常になれば、身体の不調も緩和され、健康な身体へと導くことができます。
このように、インナーマッスルを鍛えることは、単なる筋力アップだけではなく、内側から、外側から、健康的でより良い身体づくりへとつながっていきます。
インナーマッスルを鍛えるにあたっての方法として「筋肉であれば、筋トレで鍛えることが できるのではないか」という意見もあります。これに関して、答えは「No」ではありません。
いわゆるマシントレーニングやダンベル等を用いたウェイトトレーニングは、強い負荷をかけることによって筋肉を肥大させる、主にアウターマッスルを鍛えるのに適しています。先に述べた通り、アウターマッスルを働かせるときはインナーマッスルもサポートするので、筋トレでもインナーマッスルへの効果はあります。しかし、アウターマッスルへの効果が主となるため、インナーマッスルに着目してのトレーニングとしては不向きといえるかもしれません。
では、インナーマッスルを鍛えるにあたって最適なトレーニングは何か。
それが、ピラティスです。
ピラティスは、ドイツ人のジョセフ・ピラティス氏によって考案されたトレーニングで、第一次世界大戦中、負傷兵に対し、療養中の寝たきりの生活の中で身体機能を低下させないように、リハビリ目的で行われたのが原点といわれています。強い負荷をかけたトレーニングはできない負傷兵に対し、ベッドの上で横になった状態でもできるトレーニングとして、最小限の動きで身体を鍛えることができるよう、身体の内側にあるインナーマッスルを意識しての動作を中心にトレーニングを行いました。その後、アメリカへと渡ったピラティス氏により、ダンサーやスポーツ選手など、主に身体を動かす職業の人へのリハビリ的なトレーニングとして行い、以前よりもパフォーマンスや体の動きが良くなったという効果が多数よせられ口コミで沢山の人達へ広まっていきました。
これらの身体を動かす職業の人にとって大切なのが、怪我や不調を起こしにくい安定した身体、それを目指すのがピラティスであり、そのカギとなるのがインナーマッスルを鍛えることです。
ピラティスの基本は、身体のコアの安定。コアとは、身体の中心である体幹部(頭と四肢を除く胴体部分)を安定させ、コアを中心に身体を動かします。そのコアの安定に作用するのがインナーマッスルなのです。
また、ピラティスの動作は、背骨や骨盤、股関節など、自身の身体を内観し、どこがどう動いているのかを意識しながら動いていきます。これが、通常認識しづらい深層部のインナーマッスルを意識することへとつながり、意識的にインナーマッスルを動かし鍛えることができるのです。
そして、ピラティス独自の呼吸法である胸式呼吸は、腹部を引き締めた状態で肺に多くの空気を取り込みます。この呼吸により、腹横筋と呼ばれる脊柱や骨盤など体幹部を包むように位置する筋肉を刺激し、これらの骨を正常な位置に整え、その周りにあるインナーマッスルを鍛える効果があるといわれています。
ちなみに、ピラティスでも中上級者向けのアクロバティックな動作になると、アウターマッスルにも働きかける効果がありますが、そのような場合も、すべて基盤となるのはインナーマッスルです。インナーマッスルがきちんと作用することによって、外側のアウターマッスルにも働きかけるのです。
またピラティスでは、『自分の身体を感じれる』エクササイズにもなります。
エクササイズ中に体がどう動いている事を感じるのはもちろん、普段何気なく座っている、立っている時に『姿勢がどうなってるか』を感じで正したり、仕事や家事でイライラしている時に『胸式呼吸』でイライラを収めたりと・・・。自分自身へ意識を向けれるようになります。
現代社会は他人の目が凄く厳しくなってきた時代です。その他人の目を意識し過ぎて、自分自身を見失なう・・・。そこでピラティスでは自分自身の体に意識を向ける事で、自分の心や頭にも意識を向けて自分を取り戻せるようになります。
結果的にそれが自信に繋がって『ちょっとやってみたかった事にチャレンジしよう!』『もっと元気になって、その元気を沢山の人へも伝えよう!』と自分自身の生活の一部として、ピラティスを捉えることも出来ます。
インナーマッスルを鍛えるということは、姿勢を整え、関節の動きを良くし、身体の内臓機能を整える、いわば、人間が本来あるべき状態へと導くことです。
じつは身体の内外で起こる様々な不調には、インナーマッスルを鍛えることによって緩和される可能性があるものもあるのです。
そして、インナーマッスルを鍛える最適な方法として挙げたピラティス。
ピラティス氏が負傷兵たちに指導をした第一次世界大戦当時は、スペイン風邪という、現在のコロナウィルス同様の伝染病が大流行した時代でした。が、ピラティスを行っていた人でこのスペイン風邪にかかった人は一人もいないといわれています。
寝たきりの状態で行わたリハビリであったピラティスは、年齢・体力に関係なく行うことができるトレーニングです。
ピラティスで、内側から、外側から、健康的でキレイな身体を目指しましょう。